中元(旧暦7月15日)になりました。「お中元」とは、今ではお世話になった人にする「夏季の贈り物のこと」と思われていますが、本来は中国の「三元論」に由来しています。中国では旧暦の1月、7月、10月の15日をそれぞれ「上元」「中元」「下元」に分けて、季節の変わり目に神仏に食物を供え、人々をもてなす風習がありました。これが日本に伝わり、お盆に先祖の霊に供える習慣と結びついたのが、日本の「お中元」だと云われます。感謝の気持ちを捧げるのは、どの国でも変わらない真理ですね。現代は物をもらっても大喜びする時代ではありませんが、盆正月等に交わす気持ちが嬉しいものであります。
本日こんな事がありました。奉職寺院で、観光客がある手帳を見せて無料拝観をされたのはいいのですが、帰り際に「この手帳で先祖回向もタダにならないのか!」と訴えられるんです。ブランド品を携えた還暦ほどの男性でありました。丁度、関東はお盆の時期で、先祖の回向をしたい気持ちは素晴らしいのですが…「回向(えこう)」とは、「真心を回し向ける」の略で、ご先祖様が喜ばれるのは、やはり施主の気持ちであります。身を削ってでも、先祖を護ってくれる仏様や菩提寺にお供えしたいという真心が回向となるのに、それをあたかも物を値切るような回向では、その方のご先祖様は浮かばれないような気がしました。「親の土地を売って今旅行している」と言ってましたが、先人の財産を食いつぶすだけの人生では寂しいものがあります。
私たちが先人から受け継いだものには、お金や物といった「有形の財産」もありますが、何よりも「無形の心の遺産」を大切にせねばならないと思います。その貴重な心の遺産を花咲かせて、次なる世代へ伝えることが、今命あるものの勤めであり、幸福への第一歩だと存じます。
現代は「お中元」のあり方について色々議論されています。「贈ってもお返しをくれたりするからムダだと思う」とか「虚礼廃止のため」や「エコ活動の一環でやめよう」という考えもあります。しかし、伝統行事には必ず何らかの意味があります。このような時代だからこそ、本来の意味(真心の大切さ)だけは伝えていきたいものであります。合掌