風立ちぬ

先日、宮崎駿監督の映画『風立ちぬ』を見て来ました。とても良い映画に縁がありました。”古き良き日本人” がよく表された作品です。私は僧侶ですので、一般の方と見方が異なるかもしれませんが、この映画は やはりタイトルの ”風” にポイントがあると思います。物語は、主人公に 様々な苦難困難が襲います。関東大震災、仕事の挫折や方向性の違い、愛する人の病いや別れ・・・このような出来事を冷静に受け止め、プラスに転じる主人公や登場人物の ”柔軟性” に感銘を受けました。これは、日本人に染み入る 遺伝子だと思います。

先の東日本大震災後の日本人の姿勢に感動した フランス『ル・モンド』紙は、優れた国民性の理由を「日本人ならば ”諸行無常” の考えは子供の頃から知っている。この仏教の教えは、日本人の心情にしみ込んでおり、それが故に、不可避(ふかひ)の出来事を冷静に受け止めることができるのではないだろうか。」と、仏教の「諸行無常」の教えに注目しています。「諸行」とは ”すべてのもの”。「無常」とは ”常 (変わらぬもの)は無い”。つまり「諸行無常」で、”この世のものは一瞬一瞬 止まることなく移り変わる” の意味となります。

たしかに日本は、四季の変化に富み、古来より 地震や津波、台風などの自然災害に苦しんできた国です。ここに住む私達の精神の根底に、そう言った無常観(諸行無常の精神)があることは、我々自身がよく納得できます。我々日本人は、諸行無常の現実に直面した時、悲しみの感情は当然ありますが、それを静かに受け入れ、前向きに転ずる術を、いつしか身につけてきたのかもしれません。つまり、日本人の強さは「無常」に対する免疫力だと思います。

こういった点から、”古きよき日本人”を題材にした この映画に流れるメッセージは、”無常”  にあると感じました。つまり「風立ちぬ」の風とは ”無常の風” だと思えてならないのです。人間、いつまでも体力や時間があるわけではありません。逆に「諸行無常」を腑に落とす事で、今という時間を大切に過ごせるのだと思います。現代は 平均寿命をものさしに、極端な医療依存や危険回避で長寿をめざす世の中です。長寿自体はめでたいことですが、その行き先(幸福観)が大事ではないでしょうか。安穏を勝ち取るため、共存共栄の精神を忘れ、自らの利益のみを貫く生き方だけはしたくありません。「諸行無常」は ”受け入れる” という教えです。限られた時間にこそ、生きる本当の意味(輝き)が見えてくるのだとお釈迦さまはお説きです。この映画から、無常の人生、”今に生きる喜び” が大切だということを学ばせて頂きました。

また 映画に出てくる「世に出た後、才能は10年でピークを過ぎる」という紳士の言葉や、タバコを飲むシーンがやたら多いのは、無常の真理 や 人の弱さ を あえて世に問うているようにも思えました。「風立ちぬ」の風は ”無常の風” である ・・・琵琶説教師の見解でした (笑)。合掌

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